ナイチンゲール症候群とは主に看護師が患者に対して恋愛感情などの特別な思いを抱いてしまう現象です。
医師やその他のコ・メディカルに起こることもあります。
世話をするのに費やす時間が長くなるほどに愛着も強まる傾向があります。世話をすべき相手が回復したり助けを必要としなくなると徐々にその効果が弱まっていきます。
※「ナイチンゲール効果」と呼ばれることもあります。
ナイチンゲール症候群 の原因
なぜナイチンゲール症候群に陥るのかという理由ははっきりと分かりません。
個人的な見解としては以下の3つの原因が考えられると思います。
1.責任感が特別な感情につながる
看護師は患者を見たときに弱く自分の世話をするのに十分なスキルを持ち合わせていないと知覚します。
するとこの相手に対して自分は責任があると考えるようになります。
そこできちんとした境界を引かないとナイチンゲール症候群に陥る可能性があります。
2.満足感が愛情へ転化する
困っている人を助けると誰でも満足感を得ることができます。
これは自己肯定感を高めるという効果もあります。
それが繰り返されることによってやがて満足感が愛情へと転じてしまうことが考えられます。
3.行動と認知のアンバランスを解消したい心理
身の回りの世話というのは親密な間柄でしか行われないものです。ですから好きな人にこそしたいものです。
しかし職場ではそんなことは言っていられませんから好きでなくとも世話をします。
好きではないのに世話しているという状態は脳としては矛盾した状態です。
この行動と認知のアンバランスを解消するためには行動か感情を変える必要があります。
助けるという行動をやめることはできませんから感情を変えるのです。
その結果、好きということになります。これは認知的不協和理論と呼ばれるものです。
由来となったフローレンス・ナイチンゲールは患者に恋をしていない
ナイチンゲール症候群の由来は「近代看護教育の母」と言われたイギリスの看護師フローレンス・ナイチンゲールです。看護師のことを「白衣の天使」と呼ぶのは彼女の伝記映画がこのタイトルだったからです。
しかし彼女自身がナイチンゲール症候群になったことはありません。
患者に対して恋愛感情を持ったという記録はないのです。
看護の発展に身を捧げるため生涯独身でした。
病名ではないし論文もない
ナイチンゲール症候群は病名ではありません。どちらかといえば通俗心理学(ポップサイコロジー)と呼ばれるものに近いです。
日本語、英語両方の論文データベースを検索しましたが言及されているものはほとんどありませんでした。
英語の論文でのみタイトルにナイチンゲール症候群と入っているものがありましたが内容は少し違いました。
患者の苦痛を知覚することで仕事の満足度が高まり燃え尽き症候群のリスクが減る効果のことだと書いてありました。
というよりその論文の研究者たちがその効果についてナイチンゲール症候群と名づけてしまっていました。
またロマンチックな恋愛感情ではなく奉仕の精神のもとに芽生えるより高尚な共感を指すことだと主張する人もいます。
もちろん看護師が患者に特別な感情を抱くという現象は実際に起こることです。しかしそれに名前はついていないようです。
医学の世界ではフローレンス・ナイチンゲール本人が患っていた筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)を指すことのほうが多いようです。
心理学の世界では精神科医やカウンセラーとクライエントの間に特別な感情が芽生えることを「陽性転移」と呼ぶことがあります。
良いこととはされていない
看護師は患者と接するときにTLC(=Tender Loving Care)と呼ばれる優しく愛情のこもった世話を求められます。
このようなケアが病態を改善し治癒期間を短縮するという研究もあります。
しかしそれと同時に境界を意識するように注意する必要があります。あまりにも親密な関係を構築すると感情的および倫理的なジレンマに陥る可能性があるからです。
特に恋愛感情を持つということは好ましくないとされています。
中でも精神疾患の患者との関係は厳密に規制されています。
アメリカでは精神科医や看護師がそれらの患者と恋愛関係を持つと犯罪として罰せられる州もあります。
各国の医療団体の倫理憲章においても忌避すべきこととして記載されているケースが多いです。