後知恵バイアスとは物事が起こった後で「最初からこんな結果になる気がしてたんだよね」と予測可能であったかのように考える傾向のことです。
予測する能力を過大評価する心理ともいえます。
具体例を挙げると以下のものが該当します。
- スポーツの試合の結果が出た後に「やる前からあのチームが勝つと思ってたよ」と言う
- 事故が起こったときに出発前から嫌な予感がしてたと考える
- 仕事のミスを上司に報告すると「俺は失敗するって分かってた」と言われる
ニュースのコメンテーターや評論家の意見なども後知恵バイアスの掛かったものが多いです。
アジア人は後知恵バイアスが起こりやすい
後知恵バイアスは誰にでも起こり得ることですが特にアジア人はその傾向が強いとされています。
なぜなら欧米人と比べて分析的に物事を検証する思考が弱いからです。
また出来事の結果が良いときよりも悪いときに発生する可能性が高いことが分かっています。
さらに自分の予測だけではなく他人の予測に対しても起こります。
後知恵のバイアスは否定的な結果の場合にその重症度の影響を受けます。
アメリカの事例になりますが医療過誤訴訟では陪審員が「医師は事前にこの結果が予測できたはずだ」と考える可能性が高くなると言われています。
フィッシュホフとベイスの実験
後知恵バイアスは実験でも証明されています。
有名なのは1972年にヘブライ大学のバルク・フィッシュホフとルース・ベイスが行ったものです。
実験では当時のリチャード・ニクソン大統領がどのような政治判断を下すかについて学生に予想をさせました。そして結果が判明した後にそれぞれが事前に予想していた確率について思い出してもらいました。
その結果、実際に起こった事柄に対しては事前に予想した確率を多めに答えました。
反対に起こらなかったことについては低めに答えたのです。
後知恵バイアスが起こる原因
後知恵バイアスはなぜ起こるのでしょうか?
私たちは結果が出た後で関連する情報を選択的に思い出し意味のあるストーリーを作成しようとします。
この作業を簡単に行うことが出来ると結果が予測可能であったに違いないと解釈します。
推理小説や映画を見終わったときのことを考えると分かります。
最後に犯人が特定されたときに「そういえば冒頭のあの表情が怪しかった」などと伏線でないことまで証拠として考えてしまいます。
しかし冷静に考えると他の登場人物の誰にでもそのような怪しい行動はあったはずなのです。
さらに、ノースウェスタン大学のニール・ロースとミネソタ大学のキャスリーン・ヴォスは過去に行われた研究から以下の3つの要因を導き出しました。
これら3つの要因が相互に影響し合うことで後知恵バイアスが発生する確率が高くなります。
1.記憶の歪み
出来事が起こる前に自分が持っていた意見や判断について誤って記憶することがあります。
例えば「それが起こるかもしれないし起こらないかもしれない」と言ったとします。
それでも「私はそれが起こると言った」と記憶を歪めてしまうのです。
物事が起こる前にどのように考えていたかを忘れてしまっている場合もあります。
2.出来事の不可避性
後知恵バイアスは悪い出来事のときほど発生しやすい心理現象です。
そしてそういったときにそれが起こるのは不可避であったと考えてしまうことがあります。
「それは起こらなければなりませんでした」という信念に基づく偏重が起こるのです。
3.予見できたという信念
人間が社会で生きていくためには未来が予測できるという安心感がなければ不安で神経が磨り減ってしまいます。
つまり未来が予見できるという思考は誰もが持つ自然なものなのです。
しかし時にそれが強くなりすぎると後知恵バイアスに繋がることがあります。
後知恵バイアスへの対処法
後知恵バイアスの潜在的な問題の1つは自信過剰につながる可能性があることです。
未来の出来事についても実際よりも予測可能であると個人に信じ込ませる可能性があり、原因と結果の単純化を招く可能性があります。
成功すると誤って信じると自信が強まり不必要なリスクを負う可能性が高くなります。
後知恵バイアスに対抗する1つの方法は、起こったかもしれないけれど起こらなかった事を考慮することです。
さきほど説明した映画の話であれば他の登場人物が犯人だったとしても同じストーリーが作れるということに気づくことです。
対立仮説がどのように正しいか考えることで後知恵バイアスを弱めることが可能です。
参考文献:Baruch Fischhoff, Ruth Beyth,(1975)I knew it would happen: Remembered probabilities of once—future things
Neal J. Roese, Kathleen D. Vohs,(2012)Hindsight Bias